執筆後記 (トラック:私の足柄おじさん)

投稿者: | 2018-09-21

新記事出ました。トラックの過積載について書いてますー。
お時間ある時にでもどうぞ。

 

2018年9月21日
元トラックドライバーが解説する「過積載トラック」の危険性と、危険なのになくならない理由

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180921-00175168-hbolz-soci

https://hbol.jp/175168

 

本記事を書くにあたり、写真撮りのため懐かしの足柄サービスエリアへ
(とはいっても、トラック系記事の企画のため、ドライバーにアンケートを取るべく最近は1週間に2回ほど通ってはいるんだが)。
※休日やったからトラックが少ないという悲劇www

 

 

橋本がトラックに乗ってる時に習慣にしてたこと。
それは、早朝自分の工場をかなり早めに出て、サービスエリアで休憩を取るということ。

 

まあ、時間がない時は、仕方なくノンストップで8時間くらいは全然走っていたんだが
(当時は、4時間ごとに休憩とらなあかん法律がまだなく。
てか、そもそも橋本は「従業員」ではなかったため、「寝る食う飲む」以外の時間は全て仕事やった)、
通常は、順調にいけば定時で着く時間から+2時間くらい早く工場を出て、
毎度距離的にちょうど8-9割くらいまで到達したところのサービスエリアで、休憩を取るようにしていた。

 

その理由は、高速道路上で「高速」でいなくていいという
何とも言えないあのオアシス感がたまらなく好きやったからってのと、
そして何より、
同じ時間帯に同じサービスエリアのトラック専用駐車場に行くと、
橋本を待っていてくれるおっさん連中がいたからってのがデカい。

 

今回の記事でも少し紹介したんやが、
トラックのおっさんのほとんどは、その見てくれからは想像もつかないほど繊細な心を持っている。

繊細がゆえ、すぐにヘコんだり、怒ったり、オーバーに喜んだりする。
街中でこんなおっさんおったら、ガン無視するか、逆にガン見して黙らすかするんやが、
サービスエリアのその「オアシス感」を、同じ「トラック乗り」というくくりで共有すると、
なぜか彼らとの間に、色んな枠を越えた「仲間意識」を抱いてしまうのだった。

 

 

橋本がトラックに載せてたのは、記事にもあるように「金型」だった。

ひと口に「金型」といっても、重さはもちろん、形も千差万別で、
平板のようにどっしりしたものから(写真)、
木を噛ませないと自立してくれない超不安定な金型もある。

 

自動車関連のプラスチック金型業界にいる方なら分かってくれるだろうが、
ヘッドレンズのコア側とかになると、棒状のフックの支えだけで立っていたり、
すごいものだと、どこで立たせても製品部に当たってしまうような、ドライバー泣かせな金型もある。

そのため、こうした不安定な形状の金型を、素早く確実に固定してトラックに積めるまでには、
それなりの経験が必要になるのだ。

 

 

トラックに乗り始めて、まだ数か月のある日。
東名高速走行車線上の橋本の後ろにも、そんな不安定な金型が6つほどあった。

 

無事得意先から金型を引取り、
安全運転でえっちらおっちらトラックを自分の工場へ走らせる橋本。
得意先の指示が、トラックが揺れる度に頭からこぼれ落ちそうになりながらも、その道は順調だった。

 

そんな時だった。
静岡と神奈川の県境が近づいてきたころ、
ふとサイドミラーを見ると、
追い越し車線をすんごいスピードでふらふら走るクルマ。

 

(当時はまだウブだったゆえ)「怖いな」と、真ん中から左の走行車線へ寄り、やり過ごそうとする。

 

…が、次の瞬間。
追い越し車線にいた車が、突如まさかの角度から、
そのまま橋本のトラックに向かって一直線で襲い掛かってきたのだ。

 

橋本慌ててハンドル左に切り、なんとか衝突を回避したのだが、
その瞬間、後ろの荷台からすんごい勢いで“あおり”(トラックの側面)に金型がぶつかる音。
すぐに脳裏に浮かんだ、父親から子どものころから聞かされていた「金型は1型1憶円」という言葉。

 

1憶×6型。。。
当時は、ぶつけて変形した金型は、溶接で直せるということも知らず(金型の価値は落ちるが)、
マジで「ああ、橋本は一生この6憶の借金を払い続けるのか」と、大いに、大いに心臓が暴れ出す。

事故らなかった安心感はひとつも湧かず。
こうして慌てて入ったのが、たまたま近くにあった「足柄サービスエリア」だった。

 

 

5・10日(ごとうび)だったせいか、トラック専用の駐車場には、「長い仲間」がずらり。
ようやく1か所空きを発見し、すぐさまエンジン止め、荷台に上がって確認すると、
さっき得意先で、あれほど苦労して積んだ金型が、やはり気持ちいいくらい転がっていた。
その姿、まさに「金型の死体」だ。

 

1型の重さが、たしか大体150kgぐらいだっただろうか。
その転がり遊ぶ合計6億円と、テニスで鍛え上げた黄金の左手(橋本サウスポー)を交互に見る。

 

なんや生唾ひと飲みし、覚悟を決めた橋本、
積んだ時もクレーンを使わないと載らなかった金型を、必死に素手で元の位置へ戻す。
動くわけがない。相手は150kgだ。

 

……な、なんと。。。

 

動くじゃないかwww

 

嬉しい反面、すごく悲しい。

 

ただ、動きはするんだが、2本しかない人間の腕では、やはり思うようなポジションで金型の下に木を噛ますことができず、
結局元の位置には戻せたものの、トラックを再出発させるにはあまりにも不安定だった。

 

すでに日は落ち始め、工場でこの6つの金型を待っている不愛想な職人たちの顔が思い浮かぶ。
金型がオレンジ色に染まるのを眺め、急にみじめになる。

 

オトンが病気で倒れなきゃ、今頃ニューヨークで自分の夢追っかけてたのに。
なんや今の自分。なーにが悲しくて「日本一標高の高い」サービスエリアでトラックの荷台に乗って、
「たかが6憶円」に翻弄されとるんや、と。

 

 

こうして、トラックのあおりに座り、ベソかくこと5分。
こちらに向かってくる1人分の足音がした。

隣のドライバーがサービスエリアの売店から戻って来たようだ。

 

構わず引き続きうなだれていると、その足音の次に聞こえるはずの、ドアの音が聞こえてこない。
ふと、顔を荷台の外に向ける橋本。
その視線の先に、

 

……いたのだ。

 

「なんでもっとはよ歯医者行かんかってん」と一発で思わせる60代くらいの、前歯が2本しかない小さいオッサンが。
にっこり笑って。

 

 

彼の口から出た「のないしたの(どないしたの)?」
橋本、引き続きベソかきながらも、なんやすんごく安心して、事の経緯を全ておっさんに話す。

おっさん、うんもスンも言わず、相槌も首振りもせず、ただただにっこりしながら話を聞いてくれた。

 

話が一通り終わると、おっさん。
「ひょっとまっへろ(ちょっと待ってろ)」と、片手に持っていたビニール袋(タコ焼き)とお茶を自分のトラックの車内にしまい、
代わりに軍手を持って戻って来る。

 

身軽にひょいと、橋本のトラックの荷台に乗り込んでくると、
その1憶円×6型に、要領よくそれぞれ綺麗に木を噛ませていくではないか。

その小さい体のどっからそないな力出んねん。

 

関心しながらも、橋本ふと、隣に停めてある彼のトラックに目がいく。
橋本のトラックと全く同じタイプの「平ボディ」だった。

 

この界隈でこういう幌の掛け方する平ボディは、大体金型屋が多い。
その瞬間、めちゃくちゃ焦った。
このおっさん、同業他社かもしれんのだ。

 

プラスチック金型を製造するのは、大手の自動車メーカーか、家電メーカー。
その金型は、鉄の塊であるのと同時に、「企業秘密の塊」でもあるのだ。

 

つまるところ、もしおっさんが橋本の工場と同じ仕事をしていた場合、
橋本は、大手さんの秘密を、同業他社に漏らしたことになる。
そう思い始めた瞬間、なんや荷台でおろおろとし始める橋本。

助けてくれているおっさんに、
「あとは私がやりますから」とか適当なことを言って荷台から降ろそうとする。

と。

 

「らいじょーぶらいじょーぶ。られいもいわん。こわっかときは、おたらいさまやろ
(大丈夫大丈夫。誰にも言わん。困った時は互いさまやろ)」

 

 

あれから約15年。
同じ時間帯に同じサービスエリアのトラック専用駐車場に来てみているのだが、
彼の姿は、もうない。